大賞作品 長谷川美恵子

大賞作品 長谷川美恵子
図版:第10回展大賞受賞作品 長谷川美恵子「寂 尾去沢鉱山跡」(部分)

2019年7月25日木曜日

第8回「ドローイングとは何か」展大賞決定!

8回「ドローイングとは何か」展の募集におきましてはたくさんのご応募ありがとうございました。第8回展の募集は2019年6月25日(火)にて〆切らせて頂きました。
 2010年に始まった「ドローイングとは何か」展は、ドローイングという表現領域の新たな可能性を探り、優れたドローイング作品を見出すことを目的とした全国公募展です。
 今回は応募者数144名、作品数245点の中から厳選なる審査の結果、入賞者3名、入選者16名、合計1919作品が選出されました。
 審査会は、一次と二次に分けて行われ、6月27日(木)に一次審査が銀座3丁目の日本美術家連盟会館にて、7月4日(木)に第二次審査が銀座6丁目のギャルリー志門にて行われました。
なお、入賞・入選作品は2019729日(月)-8月10日(土)銀座6丁目ギャルリー志門にて展示されます。

【審査員】
金澤 毅(美術評論家)
中林忠良(版画家)

第8回審査員を予定していた本江邦夫先生のご逝去に伴い、後任者を検討いたしましたが、審査会までの日数があまりにも少なかったため、今回は初回から審査を務めて頂いている金澤毅氏・中林忠良氏の両名によって審査を行わせて頂きました。


受賞作品は下記の通りです。

【大賞】
加藤 力「眼差し」   MBM木炭紙・木炭 1000×650mm


<制作意図・またはあなたにとってドローイングとは>


空間の中に恐る恐る手を入れる。指先が何かに当たる。ザラリとした触感と同時にタッチが生まれる。迷いながらいくつかのタッチが重なり、今度は掌全体を擦り付けてみる。掌から染み出した圧力が画面に写し出される。感情を伴った手からの圧力と、空間からの反発との試行錯誤のうちに徐々に物語が顕れてくる。私にとってドローイングとは、感情をもっとも具体化する力を持った「手」そのものであり表現の根幹である。怒りの感情は荒々しい圧力になり、やすらぎは低圧のフラットなマチエールになることが多い。迷いがあるときは迷いそのものが表れる。「手」は元々人間のコントロールを超える能力を持っている。他者を慈しみを持って触れることもあれば、憎しみを表すことも、殺めることもある。どんなに便利な道具を作りだしても、現実に何かをやらかすのはやはり手である。今回手で「手」を描いたが奇妙な入子になっている。「手」は矛盾を孕み暖かく恐ろしい。

<加藤力・略歴>  

1965 東京都生まれ  神奈川県出身   
1989 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業 
1991 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修士課程修了    
≪主な個展≫ 
2001 前橋芸術週間 pre-ari vol.1「広がりゆくもの」(群馬) 
2007・08 ギャラリー山口(東京)
2014 ギャラリーセラー(東京)   
≪主なグループ展≫ 
2009・12・15・18 大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ 力五山 (新潟)

2013 瀬戸内国際芸術祭力五山(香川) 

2017 奥能登国際芸術祭珠州2017力五山(石川)
 


【準大賞】
倉田和夫  「BREAD・19-9」   水彩紙・鉛筆・ガッシュ 740×910mm

<制作意図・またはあなたにとってドローイングとは>

パンの描き方:パネルに厚い水彩紙を空気やしわが入らないように張り付けます。白いジェッソを2度塗りします。トレーシングペーパーの下絵を念紙で写します。バックに薄く溶いた黒色のアクリルガッシュをむらが出ないよう何度か塗ります。汚れないようバックの部分をマスキングします。鉛筆、指、手の平、布、練りゴム、白い絵具、爪などを使ってパンのボリュームと質感を表現していきます。一通り手を入れたらバックのマスキングをはずし、全体のバランスを見ながら線を引いたり取ったり、納得のいくまで描き込みます。

<倉田和夫・略歴>
1950 広島県生まれ
1976  創形美術学校版画科中退   
個展≫
2012 日本橋三越本店美術サロン(‘15‘18) 
グループ展
1977  第13回現代日本美術展   
1978  1回ジャパンエンバ美術コンクール(‘91 ‘93 
1985  東京セントラル美術館油絵大賞展(‘93 
1992  第1回小磯良平大賞展
1993  第3回浅井忠記念賞展 
1997  第6回リキテックスビエンナーレ 
2015  FACE展(‘17  
賞歴
1992 第1回林武賞展優秀賞  第4回春日水彩画展大賞   
1993 人間賛歌大賞展奨励賞   
2015 FACE展オーデイエンス賞  アートオリンピア審査員特別賞

    

【準大賞】
松尾奈保  「そこにいて うごめくもの」  鉛筆・木炭・墨  910606mm


<制作意図・またはあなたにとってドローイングとは>

私は目に見える実体の、その向こう側を表現したいと考えています。意識や魂など、見えないものを表現したいからこそ、それを持つ実体のありようを追うことに執着しています。この絵では眠っているときの自意識に興味を持ち制作しました。人が眠るとき、その人の自意識は目に見えるものから遠ざかって、その強さを絶えず変化させています。その人がその人である所以はその人の内側で絶えず蠢いているものです。その痕跡を残すことを制作で試みました。

人を描くとき、描く対象となる人と、描画材料、対象と向き合った私の痕跡が画面に刻まれます。その痕跡の時間的・空間的な広がりは、見る人をその人にとっての“あの時のあの感覚”へ連れていくものです。
 
 
<松尾奈保・略歴>

1996 京都府生まれ 
2019 広島市立大学芸術学部美術学科油絵専攻卒業   
現在 広島市立大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻在学中         
グループ展
2018 641諏訪敦研究室特別講義「篠田教夫鉛筆画の臨界点」成果展(東邦アート/東京)
2019 犀の角たち(ギャラリーアートもりもと/東京)未来展(日動画廊/東京) 
賞歴 
2013 35回美工作品展 京都市長賞 
2019 22回広島市立大学芸術学部卒業・修了作品展 優秀賞・芸術資料館買い上げ    
収蔵 
広島市立大学芸術資料館(広島)

  


【入選】
1. 安藤ニキ「彼のための記念碑1」
2. 石岡有佳子「雨」
3. 岩仲沙織「独善2」
4. 岡本博紀「或る人物の輪郭」
5. 小倉信一「森」
6. 工藤沙由美「祈り・増殖する願い」
7. 小能一樹「祖父像」
8. 斎藤岩男「La muerte」
9 杉木奈美「S190412katamariwokaku
10.多田吉民「おもい」
11.谷 英志「KARAOKE in 1st jan 2018 Bangkok #02」
12.千葉達志「少女波浪」
13.坂東 瞳「首吊りの木」
14.廣瀬万喜子「夜の庭1」
15.渕沢照晃「silver skin-01」
16.山田琢矢「剥き出しの生」

第8回「ドローイングとは何か」入賞・入選作品展
会 期:2019年729日(月)~8月3日(土)日休
授賞式:20197月29日(月)1700
レセプション:2017729日(月)1800
時 間:11001900(最終日1700
場所:ギャルリー志門
住所:東京都中央区銀座6-13-7 新保ビル3F 
電話:03-3541-2511 
入場無料

<審査報告>
 今回は144名から作品245点の応募があった。審査は第一次(入選作品選考)と第二次(受賞作品選考)に分けて行われ、第一次審査では下記の通り4段階を経て作品が19点まで絞り込まれた。その中から最終(第二次)審査で大賞・準大賞作品3点が選出された。

●第一次審査(入選作品選考)
写真画像による審査。4回に分け投票式にて行われた。
① 1次:245点→116点
   審査員1名以上の投票があったものを残した。
② 2次:116点→49点
   116点の中からさらに1名以上の投票があったものを残し67点は選外、49点が残った。
③ 3次: 49点→41点
   49点のうち、複数出品した2名の作品が各3点、4名が各2点残ったため、審査員はこの14点について協議し、1人1点に絞り、41点が残った。
④ 4次: 41点→19点
  47点のうち、協議によって絞り込み19点が残った。
 
●第二次審査(受賞作品選考)
入選作品19点の中から10点法によって上位作品3点を選出し、審査員の間で協議を交わし準大賞および大賞を決定した。


審査風景

<事務局から>
第8回「ドローイングとは何か」展の募集におきましては沢山のご応募ありがとうございました。多様性に富んだ作品群を前に、審査も白熱したものとなりました。また、例年と比べて人物をモチーフとした応募作品が多く見受けられたのも印象的でした。

<追悼>
 2019年6月、第8回展の審査員を務めていただくことになっていた本江邦夫先生が審査会直前に急逝されました。ご逝去の3日前まで事務局とメールでやり取りしていただけに、突然の訃報に関係者一同言葉を失いました。
 これまで本江先生にいただいた様々な助言や提案は、本展の発展にとって貴重な礎となりました。2021年には東京都美術館における第9回展の開催を予定しておりますが、これも本江先生の助言なしには実現できませんでした。会期中のイベントには「ドローイングとは何か」をテーマにした討論会を提案して頂き、先生は来館者と討議することをとても楽しみにしておられました。70才という、まだこれからという若さで、多くの方々の期待を受けながら1人旅立たれたことが悲しく残念でなりません。美術界にとって大きな損失でした。
 本江先生には感謝とともに、心よりご冥福をお祈り申し上げます。